宮崎駿の時代

宮崎駿の時代―1941~2008

宮崎駿の時代―1941~2008

目次(amazonより引用)

二〇〇八年四月十四日 オリエンテーション
二〇〇八年四月二十一日 アニメーションは百歳になった―技術的視点から眺める「アニメ」と「アニメーション」
二〇〇八年四月二十八日 『ルパン三世カリオストロの城』に潜ってみよう
二〇〇八年五月五日 『風の谷のナウシカ』は「父」を殺す
二〇〇八年五月十二日 『天空の城ラピュタ』のふたりはセックスをしたか
二〇〇八年五月十九日 バーチャルふるさと論―『となりのトトロ
二〇〇八年五月二十六日 『魔女の宅急便』は「夫」を探す
二〇〇八年六月二日 どこにも着地できない『紅の豚
二〇〇八年六月九日 私の「ふるさと」はどこ?―『海がきこえる』『耳をすませば
二〇〇八年六月十六日 飛べないナウシカ、『もののけ姫
二〇〇八年六月二十三日 神の手が多すぎる『千と千尋の神隠し
二〇〇八年六月三十日 反戦ってなに?―『ハウルの動く城
二〇〇八年七月七日(午前の回) 「ぼくはもともとマンガ家志望だった」―マンガ版『ナウシカ』解読その1
二〇〇八年七月七日(午後の回) 地平線にはけっしてたどり着けない―マンガ版『ナウシカ』解読その2
二〇〇八年七月十四日 『崖の上のポニョ』公開を控えて

最初に言っておきたいことがあるのですが、この本、とにかく長い。ページ数が400ページ超な上に、1ページが2段になっており、だいたい1ページが新書2ページ分の量ほどあるので読みきるだけでも辛かった。
だいたい、自分は最近になって本をよく読むようになった身なので、速読なんて芸当はできない。読書スピードとしては普通かちょっと遅いぐらい。・・・だと思う。
たとえば、公認会計士山田真哉さんが「1時間ほどで読めます」という本でも、だいたい2時間ぐらいかかります。
勝間和代さんの最高傑作、現る!? | 『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』100万部?日記 - 楽天ブログ
まあそんなわけで、本当は昨日読み終わるつもりだったんですが、8時間ほどかけてようやく読み終わった次第です。


内容としてはタイトルから察すると分かる人もいると思いますが、宮崎駿について書かれた本。前著である『宮崎駿の仕事』という本の書き下ろしみたいな本らしいが、自分は読んだことがない。
目次の月日はなんだろう?と思われるかたもいると思うが、この本では講義録の体裁をとっており、生徒に質問したりするような場面も見られる。講義の名前は『宮崎アニメ論』。月曜の1限目の授業で、眠いと言う場面も見受けられます。その形式がなかなか面白い。本書でも"わたしはコントが得意で、今もコントをしに来ています"と書かれており、なるほど。と言ったところだ。
まあそれにしてもなんというか、てっきり宮崎駿を絶賛した本かと思えばむしろその逆。もちろん、そういう話もあるんだけれども、ほとんどは批判。本のタイトルはむしろ『宮崎駿を斬る』と書いたほうがあっているだろう。と思うほどだ。たとえて言うと、『本当は恐ろしいグリム童話』とか『空想科学読本』のような本だ(前者は読んだことないんですが・・・)。
いや本当、あんた宮崎駿の何に惚れてそこまで熱心に研究してんのさ。と思うほどです。読みすすめれば読みすすめるほど。
といっても、宮崎駿をおちょくっているわけでもなく、本書にも"宮崎駿をおちょくるネタ自体は2ちゃんねるでも行けばいくらでも見つかります。十度のロリコンだの親子世襲北朝鮮スタジオだの。"というように、そういうのは2ちゃんねるでやってくれと書かれている。


まあ、そんわけで再度繰り返しますが、宮崎駿について語っている本なのだが、半分ほどは宮崎駿とは関係ない話です。もちろん、その内容は宮崎駿アニメを語るのに必要な前知識だったりするのですが、読んでいるうちに、アレ?何のアニメについての講義だっけ?と疑問に思うというのがときどきありました。
第五講義でロリコンやエロパロについての話をしていたり、第七講義で魔女っ子アニメについて話していたり。
でもさすがに、第五講義の半ば、"「アニメ・ブーム」が'83年頃ごろを最後に下火を向かったのと入れ替わりに、ビデオアニメの世界で18禁作品がいくつか作られるようになったんです。(中略)お見せします(DVD再生)。これ、『くりいむレモン』というOVAです。"という場面には思わず噴きそうになった。帰宅電車の中で読んでいたのでなんとかその場をのりきりましたが(まあ、この章のタイトルの時点であれなんですが)。


そうそう、僕が一番好きな宮崎アニメは『千と千尋の神隠し』ですが、もちろんその作品ももうバッサリ斬っちゃってます。
で、この第十一講義を読んで、確かに言ってる事も分かるし、自分もそう思ったことがある。でも、僕はそれも含めて好きだ。と言いたい。
簡単に要約すると、"監督は「今時の普通の少女が生きる力を取り戻す話」とか言ってますが、あの子はハクやカオナシがいなけりゃあ、何もできなかったんですよ。監督はそんなサポート役を用意した。ズルイ"というように。
ただし、著者は"ラストの最終テストで千尋が「いない」と答えたのはこの中に親はいないではなく、自分には親はいないという意味です"という解釈にはさすがに無理やりすぎだろうと。実際に本書でも"こう思うと物語が映画冒頭部分と繋がるんです"なんていってますが、こっちもやっぱり無茶な解釈にしか見えないんだよなー。著者は千尋だけでなく、すべての宮崎アニメ作品でそのような解釈をしていますが。


でもまあ、全体的に見て、同意できるところも少なくありませんでした。例えば、"もののけ姫は最初と最後じゃあ主人公の目的が違う。最後のほうじゃあ、あんた何しにここに来たんだ?という感じです"など。
自分も言わせてもらうと、『ハウルの動く城』はまったくわけが分からなかった。何でこんな大盛況なん?と思って、"一度見ただけじゃあよく分からないから二度も三度も見に行くという人がいる"ということを聞いて納得した次第だ(これは本書に書かれていることではなくて、実体験)。


でも、一番ショックだったのが、"今、日本のアニメが世界中で人気だなんて言われているけどアレ実は半分は嘘でして、(中略)気持ち悪いと感じる人――実はこっちが圧倒多数"という事実。この文は第十講義を引用していますが、最終講義でも詳しく述べられています。
実際、宮崎駿自身が"日本のアニメーションが世界いっぱいに広がっていったら、恥をかくだけの道具"と語っているそうです。そういえば、先日も麻生太郎首相にたいして何か言ってましたね。
宮崎駿監督、麻生首相の自称「漫画好き」に苦言 写真4枚 国際ニュース:AFPBB News


ところでこの本、講義録本なはずなんですが、目次にも前書きにもどこの大学かは書かれていません。大学1,2年生の月曜1限目の講義ということは分かるのですが・・・。と思っていたら、あとがきにその理由(大学名ではなくて)が書いてありました。あー、そう言われてみると確かにそうだわ。よく見ると前書きの時点でそれと分かることが書いてありました。